ヴァニラ画報

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髙木智広展「兎狩り」

 

100号のキャンバスに描かれた「兎狩り」と題された作品。巨大な兎にまたがった女性像は、朝焼けの中で勝利を鼓舞する武者絵のようにも、その白装束から古代の神の姿のようにも見える。
作品のダイナミズムと呼応するように、命のスパイラルの上にある歓喜と哀感に満ちた咆哮が聞こえてくるようだ。

髙木智広は1995年にヨーロッパで古典絵画技法を研究し、一貫して作品テーマの根幹には自然と人との繋がりを据え、数々の個展、グループ展で油彩作品を発表し続けている。
人と動物が混じりあい生まれた半人半獣の神話画のような様式美と奇想的な楽園を思わせる卓越したビジョンを提示してきた気鋭の作家である。

今回2年ぶりとなる弊画廊での個展では、近年の代表作から、最新作までこれまでの活動を総覧できる作品点数を出品いただいている。

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2連作の「雨宿り」1つはしとしとと滴る雨水の向こう側にぼんやりと馬の姿が浮かぶ
そのたてがみの中には暗い面持ちをした女が、何かから身を守るように、じっとこちらを見つめている。対するもう1つは馬の姿は骨のみになり、やはりその向こうから女が怪訝な顔で濡れた空を見ている。
その姿は北欧神話の夜の女神ノートが如く、地を濡らす化身のような存在感と不気味さを彷彿とさせる。

 

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「rabbit hole」「狼少女」「rabbit bandage girl」「輪廻」といった一連の作品では、少女と動物たちがまさに溶けるように混じりあい、互いを身にまとい、カオスが生み出した女神ニュクスのように、暗闇の中から立ち現れるその姿は優雅な官能すら醸し出す。

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そして「夕顔」では今度は白い魂のような人体が呼応しあい、絡み合いながら、新しい生命体へとその姿を変えていく。
朽ちていく肉体、滅びゆく魂と共に、祈りの中に生まれた新たな胎動すらも感じる大作である。(この作品は、2016年弊画廊で開催した「幽霊画廊」に出品いただいた。)

 

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また、近年の代表作の中でも異色作であると言える「烏賊を運ぶ日」。
2015年に描かれたこの作品は、一見ユーモラスでシュールな面が顔を覗かせるが、その実、艶めかしい暗喩、神話的な情景、そしてグロテスクな土着的神秘性に満ち溢れ、暗いノスタルジーの中を彷徨うような、覚めない白昼夢の中に見るものを誘う怖い絵である。

 

 


総じて、自然と人間の関係から、異様で恐ろしくもありながら、同時に豊穣で郷愁的な世界を真摯に、そして克明に描き出してきた作家、高木智広。
今展示はその旧作から新作までを包括的に振り返る事のできる貴重な機会となる。

(ヴァニラ画廊田口)
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髙木智広展「兎狩り」

2017/9/26(火)〜10/7(土)
http://www.vanilla-gallery.com/archives/2017/20170926a.html
ヴァニラ画廊 展示室A
入場料500円(展覧会室AB共通)
営業時間
平日/12:00-19:00 土,日/12:00-17:00(会期中無休)

今展「兎狩り」では、兎を受難の象徴として、様々な視点から描いた絵画作品を展示します。
それを通じて人間の狂気、自然の猛威など、自然と人間の関係を表現します。(髙木智広)

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高木智広はヨーロッパで古典技法を取得した後、野山で動植物と戯れて過ごした幼少時の原体験と、パプアニューギニアでの滞在で巡り合った精霊信仰から見出した「人間と自然の共生」をテーマに据えながら、自身の作品に色濃く反映させてきました。
ヴァニラ画廊にて2年ぶりとなる個展「兎狩り」では、人間が無意識的かつ半ば暴力的に生み出した自然との「境界線」を、豊穣なイメージの網に迷い込んだ兎に託して克明に描き出します。
旧作から新作まで作品を包括的に振り返りながら、人間と自然の在り方を可視化し、その本質に迫る試みにご期待ください。

◆髙木智広 プロフィール◆
西洋の古典技法を用いた絵画作品を中心に自然と人間の関わりをテーマに制作。
近年では日本人の精神の源流となる八百万の神々をモチーフとしている。
国内外で個展グループ展多数開催。