愛実人形展「LUST」特別インタビュー
愛実人形展「LUST」作家インタビュー
現在ヴァニラ画廊では人形作家の愛実さんの個展を開催中です。
愛実さんの人形作品は圧倒的な力強さと存在感と共に、その瞳には、そこはかとない諦念や、咆哮する慟哭が宿っています。
4年ぶりとなる個展では、総数17体の作品を出品中です。
今回の個展について、愛実さんにお話を伺いました
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ヴァニラ画廊 以下、V
愛実さんはいつ頃から、こういった創作人形を作り始めたのでしょうか。
愛実 以下、A
作品を制作し始めたのは、きっかけがあり、2004年に東京都現代美術館で開催された「イノセンス・球体関節人形展」を見てからです。
ちょうどその時期に、仕事が終わるのが遅い時間で、家に帰った後にテレビをつけると、ちょうど攻殻機動隊のアニメが終わる時間帯でした。
攻殻機動隊は全く知らなかったのですが、その終わりの時間帯に何度も「イノセンス・球体関節人形展」のCMをやっていて、吉田良先生や、四谷シモン先生の作品をぼんやり見ていました。
どうやら人形展をやっているらしい…と。
それまでは人形といったらリカちゃん人形の知識しかなかったのですが、ちょうど仕事の暇な日、ふとその展覧会の事を思い出して、足を運びました。
それが展覧会の最終日でした。
初めて見た球体関節人形の世界で、何かを表現している人形たちにとても感動して、これが欲しいではなく、私も作りたいと思ってしまいました。
あの時展覧会を見に行かなかったら、多分創作活動もしていないし、こういった人生を歩むこともなかったかと思います。(笑)
その時に見た作家さんで、とても強く惹かれたのが吉田良先生でした。
それで吉田先生の教室を探して、教室に通う申し込みをしたのですが、入るまで約半年ほど順番待ちでした。私と同じ思いの人がたくさんいたようです。(笑)
V そこで初めて人形制作を始めたのですね。
A 本当の意味で一番初めに作ったのは、教室に入る前に半年くらい時間があったので、その間に独学で1体作っていました。
色々と試してみたのですが、鉄人28号のようなロボットのような、人形らしきものが出来上がりました。(笑)
V 吉田先生の元で初めて制作した人形は、目が乳白色で蒼黒い肌の人形だとお聞きしたのですが…。
A 当時は先生に一生懸命、目を白くするにはどうすればいいのかと聞いていました。今回展示してある中で、2、3体目くらいに制作した人形作品もそのイメージに近いですね。
V 愛実さんの作品は、ビジュアル面でもほの暗いイメージが強いのですが、本質的な部分でそういった嗜好なのでしょうか。
A いや、あまりよく自分ではわからないのですが、自宅にあったダリやムンクの画集はよく見ていました。
後、海の図鑑の中では深海魚のページが特に好きだったので、具体的にはお伝え出来なのですが、そういった暗いイメージに惹かれる傾向はあったのかもしれません。
V 今回のメインの作品も、人の形をしていますが、何か人ではないようなオーラを放っていますね。
A この作品は色々な意味で、境界線上に立っているような作品にしたかったからでしょうか。
製作していくうちに、感情や存在の境界線に佇んでいるような人形のイメージを強く抱くようになりました。
V 立体は形として制作するので、特に境界線上の表現は難しいと思うのですが、愛実さんの作品はその境界を壊してくるようなインパクトがあります。
この手足が黒い人形もそういう意味合いが強いですね。
A そうですね。人体が統一されていない事で、ヒトガタと相反するものをこの作品に投影している部分はあります。
V 確かにこういった表現は、愛実さんの生き人形のようなリアルさがあるからこそ映えるものだと思います。
A 勢いだけでは作り切れない部分が多すぎて、表現するにはどうしても技術が必要です。
まだまだ勉強中の身ですが試行錯誤していく先に、作りたいものがなんとか作れるようになってきました。
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V 今回の展覧会のタイトル「LUST」ですが、これは愛実さん自身の人形作品を作りたいという欲求の意味なのですね。
A 人形を作りたいという欲求のサイクルがずっと途切れることなくいるのはどういうことなのだろうと自問です。
オブジェから人形から繰り返して制作したいというサイクルをずっと繰り返しているので。
ただずっとそのサイクルの中にいるというのは飽きっぽいからかもしれませんが…。
V 全然飽きっぽくないですよ!(笑)
今回は新作が5体、過去作も含めて17体の作品から、愛実さんの創作をより深く感じる事ができるのではと思います。
A 是非楽しんでいただければと思います。
(2017.9月27日)
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愛実人形展「LUST」
2017年9月26日(火)〜10月7日(土)展示室B 入場料500円
(展覧会室AB共通)平日(月~金)12:00~19:00 土・日・祝・最終日:12:00~17:00
(会期中無休)
http://www.vanilla-gallery.com/archives/2017/20170926b.html
人形を作りたいという強い気持ちが湧き上がってきます。何処から来るのでしょう?この強い欲望は…。
人形作家愛実の2回目の個展を開催いたします。愛実の制作する人形作品は圧倒的な力強さと存在感と共に、その瞳には、そこはかとない諦念や、咆哮する慟哭が宿っています。前回の展示では、等身大の大型作品を始め、痛ましさと切なさを内包する作品を発表し、注目を集めました。4年ぶりとなる個展では、5点の新作を含む作品を展示いたします。今最も注目を集める人形作品をぜひお楽しみください。
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愛実プロフィール
2004年 人形教室ドールスペースピグマリオンへ。吉田良氏に師事。
2013年 個展「release」ヴァニラ画廊
2014年 「ima展」ホルベイン賞受賞
2016年 「幽霊画廊Ⅲ展」ヴァニラ画廊
「幻獣神話展Ⅲ」Bunkamuraギャラリー
「Doll’s Show」六本木ストライプハウス
「人・形展」丸善・丸の内本店
「ima展」東京都美術館
2017年 「Borderless Dolls ヒトガタのなかの7つの世界」FEI ART MUSEUM YOKOHAMA
「村崎百郎UMA展」ギャラリーソコソコその他グループ展、企画展多数参加。
戸野塚はづき個展「優しい苦痛」作家インタビュー
与偶人形作品展「フルケロイド ~FULLKELOID DOLLS~」与偶インタビュー
救いようのない感情から産み堕とされる、
心の幼きを止められた人形たち…
ヴァニラ画廊では、現在与偶の人形展を開催中です。
「人形作品」と一言で言っても、壊れそうなほど繊細なものから、粗削りでも存在感のある作品まで、その姿形は様々です。
その中で与偶さんの制作する人形作品は異質とも言っていいほど特徴的な姿をしています。
大きく引き攣れたような手足の指先、見開いた大きな瞳は、片方が閉じられ血の涙を流していますが、それらは、なぜだか痛々しくはなく、強い意思を持って立ち上がっているように見えます。
13年ぶりの個展となる与偶さんに、今回の展示に付いて、お話を伺いました。
ヴァニラ画廊(以下V)今回のメインの作品は両目を開けていますね。
与偶(以下Y)この作品は大型の球体関節人形としては、一番新しい作品です。私が作る人形の両目は、それを作っている時点の自分の精神状態によって、開けるのか、伏せるのかが自然と決まります。私は人形を制作する際に下絵などは特に描かないので、このときも無意識的に両目を開けさせたんですね。
昔の作品は片眼をつむっている作品が多いですが、これは外界からの抑圧につぶされて、内面を見つめるために片目をとじているのです。もう片方の開いた目は、そんな悪い状況であっても戦うために、現実に目線を向けているのです。
こう片方の眼で、じっと物事を見ていて、片方はもう見ていられなくてつむってしまった状態。そのつむってしまった片方の眼からはダメージを受けて血が流れているんです。これは自分の身体に傷をつけ、溢れ出た血を直接筆に浸けたもので描いています。完成型では見えない部分、球体関節人形のがらんどうの各パーツの内側にも、自分の血を塗り込んでいる作品もあります。
人形の目…視線を第一に強調したいので、新たな一体を作り始める時も、先ず目の周辺から作り始めます。眼球は頭部を造形するときに最初に粘土に埋めてしまうんです。目の表情が決まると、人形の全体像がおのずと見えてくる。目と表情が先ず出来てから、全身像を作り上げていくのが私のやり方です。
V 与偶さんの作品は歯もとても特徴的ですね。
Y 普通の歯ではないんですよね、こう、牙のような…食いしばるような、何か切り裂くものを持たせる意味合いです。
最新作の子はその牙の代わりにハサミを持たせています。
今回の個展は、私が高校生の時分に一番初めに制作した球体関節人形も展示しているのですが、その頃はネットの記事で読み知った通り、原寸大の下図を描いてから、発泡スチロールを一回り小さく削り出し、そこに石粉粘土を薄く盛って作っていますから、非常に軽量です。
最近は、発泡スチロールを芯にはしていても、直感的に盛り削って、途中でフォルムを大きく変えたりもするので、粘土の厚みが増して、かなり重たい人形になっていますね。
V 球体関節人形作品と一緒に、フィギュア作品も今回多く出品いただいております。
Y フィギュア作品もまず初めに顔を作ってから全体を造形していきます。オーブンで熱硬化させる樹脂粘土で制作しているのですが、自宅にオーブンが無かったときは、代わりに髪を乾かすために使うドライヤーの熱を当てるという自己流のやり方で作っていました。
V 与偶さんにとって球体関節人形と、フィギュア作品はどう作り分けているのですか?
Y フィギュアは私の内面のおとぎばなしの断片で作られています。周辺までストーリーを作り込みたいので、背景やベースも作っています。
V 今回の展覧会タイトル・作品集のタイトルになった「フルケロイド ~FULLKELOID DOLLS~」にはどういった意味が込められているのでしょうか。
Y 「ケロイド」とは傷ついた証であり、ケロイド状態になっているということは、その傷が塞がって医療的、外科的には治ったとしても、痕跡と心の傷は消えずに残っているわけです。
私はその苦痛を背負いながら生きていく、生き抜いていく、たとえ、心と身体のすべてがケロイドで覆われていても…と言う意味合いの造語が「フルケロイド」なのです。
V 最後に、与偶さんに、今回の個展について、お客様に伝えたいメッセージを入れていただければと思っております。
Y たとえ晴れることのない暗闇の中の世界に生きていても、暗闇からでも得られる自分自身のおとぎ話を心のよりどころにしてほしい。死に魅せられていても、様々なものから抑圧されても、抗う人形、戦い続る人形、生き続ける人形…「フルケロイド・ドールズ」という名の、命の塊を感じてください。
(2017.8.12)
今回の個展では、インタビューに登場した高校時代の初めて製作した球体関節人形から、最新作まで、作りためてきた52作品が並び、サイン入りの作品集の販売もございます。
会期は今週20日(日)まで、この貴重な展覧会をどうぞお見逃しなく。
与偶 人形作品展「フルケロイド ~FULLKELOID DOLLS~」
http://www.vanilla-gallery.com/archives/2017/20170808a.html
2017年8月8日(火)~8月20日(日)
営業時間・月曜日~金曜日12:00~19:00
土日祝、最終日:12:00~17:00
※日曜日も営業いたします。
入場料500円
Yogu Doll Works Exhibition "Full Keloid ~ FULLKELOID DOLLS ~"
Dates - August 8 (Tue) - August 20 (Sun) in 2017
Business hours · Monday - Friday 12: 00 ~ 19: 00
Saturday, Sunday and public holidays, last day: 12: 00 ~ 17: 00
※ We will open on Sunday.
髙橋美貴個展「Limbo-辺獄-」インタビュー
髙橋美貴個展「Limbo-辺獄-」特別インタビュー
2017/07/20~8/6の期間で個展を開催中の髙橋さんは、長年ゲームクリエーターとして活躍してきた確かな技術力と、卓越したイマジネーションで、心的現実と世界の中を揺らぎながらも、永遠の静寂と忘却のかたちを描き出してきました。
その創作に関して、髙橋さんにお話を伺いました。
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ヴァニラ画廊(以下:V) 今回初めての個展という事で、先日会場にご家族の皆様がお見えになっていた際に、昔からこういったものを描いていたとお伺いいたしました。
髙橋美貴(以下:T) こういったもの…笑 物心が付いたころから、絵を描いていた記憶はあるのですが、描いているものは全く意識していなくて、幼い頃は普通に漫画やアニメ等を真似して描いていました。今でもメーテルは何も見なくても描けます。笑
ただ、小学生の頃自宅の隣が本屋さんでよく通っていて、礼儀的に立ち読みはできなかったので、おこづかいを握りしめて、漫画の単行本の表紙を真剣に吟味して選んだのが魔夜峰央先生の『ラシャーヌ!』でした。
魔夜峰央先生の絵に心惹かれるものがあったのだと思います。『ラシャーヌ!』もその後に買った『パタリロ!』も怪奇ものではなかったのですが、たしか『ラシャーヌ!』の巻末に『二口女』が載っていて、それにすごく惹かれたのも覚えています。
V 数ある単行本の中から魔夜峰央先生を選ぶという、審美眼!
髙橋さんの原点がそこにあるのかもしれませんね。
その後、高校から美術を専攻されたという事ですが、本格的に美術を学ぼうと思ったのは何かきっかけがあったのでしょうか。
T 祖父が彫刻家で(注1)、一緒に住んでいた頃は自宅にアトリエがあり、毎週一緒に日曜美術館を見て、祖父が読み終わった芸術新潮等を読んでいました。
その影響で、当たり前のように自分の進学する道は美術だと思っていました。
今は閉校してしまったのですが、都立芸術高校に入学し、当時は日本画を専攻したいと思っていたのですが、祖父から美術を職業にする難しさをアドバイスされ、デザイン科に進むことになりました。
実際、デザイン科では色々な事を教えてくれ、油彩から彫刻まで幅広く学ぶことができました。
V その後は武蔵野美術大学のデザイン科に進学されたのですね。
T やはり高校時代に学んだことを中心に、その上でデザインや広告の分野にも強く関心を持っていました。同時にCGの面白さにも触れ、引き続きデザイン科を選びました。
アルバイトではデザイン事務所でMacを使える所を選んだり、新しい技術を色々と学びました。
大学では、多少ですが、映像制作なども行っていて、その中で色々とダークテイストなものを制作していました。
当時マックス・エルンストの『百頭女』に影響を受けて、そういったモチーフのコラージュを制作して動かしていました。
V モチーフの選び方が、実に高橋さんらしいですね!
T 暗いものを…笑
実際、アングラ系の同級生がすごく気に入ってくれて、その映像作品は最終的にはドイツの映画祭まで旅立っていきました。
V その映像作品は是非拝見したいです!
その後はゲームクリエイターとして就職し、様々なゲームの制作に関わってきたとの事ですが、いわゆるダークテイストなものが多かったのでしょうか。
T いや、仕事なので、ダークテイストのみという事はまるでなく、様々なジャンルを制作していました。
ホラーをやりたいというこだわりはまるでなくて、『サイレン』に関わったのも、たまたま自分のスケジュールが空いていて、ホラーゲームを作っているチームの仕事に関わったという形です。
ただ、幸運なことに、一番初めに描いた屍人が、ディレクターの求めていたものだったという話です。
V 屍人は本当に恐ろしかったです。全世界にトラウマを残した作品だと思います…。
当時はお仕事と作品制作を共にやっていた形でしょうか。
T いや、社会人になってからはオリジナルなものを作って発表するという事はしていなかったです。
特に『サイレン』を制作していた時は、そこで自分の表現としては満足してしまった部分があるのかもしれません。
ただ、その後の仕事でホラー的な要素のあるものがあまり無く、何となく寂しい気持ちになって、漠然と絵を描いてみようかなと思いました。
V オリジナル作品は当初CGで描いていたのですね。
T そうですね。仕事でCGを使用していたので、その流れでCGで描いていました。ただ、展覧会などに出品する際に、どうしてもアナログで描いた作品の方に力強さを感じてしまいました。
V そこから鉛筆で制作を始めたという形でしょうか。
T アナログで描く際に、当時一番使っていたのが鉛筆だったので使いやすいということと、気軽に構えずに描けたという事から使っていました。
「夜明け前」鉛筆画
そしてその後、日本画を習い始めました。
高校のデザイン科で唯一授業が無かったのが日本画で、どういう絵を描いていこうかと振り返った時に、自分が影響を受けていたのは日本画が多かったからです。
「私は何処へも行ける」絹本着色 黒箔
V 実際にどういった作家に影響を受けていたのでしょうか。
T 竹内 栖鳳や、甲斐庄 楠音には強く影響を受けました。先ほどお話したのですが、祖父と一緒に見ていた日曜美術館の甲斐庄特集の時には、何だこの画家は!って。笑
V 今回の個展では、CG作品から鉛筆画、そして日本画まで多彩な作品が揃っていますが、根底にあるテーマは一貫していて、甲斐庄 楠音の根底にある澱のようなものと、髙橋さんの作品には何か通じるものがあるように思います。
T 何かしらずっと頭の中にある場所を描いている感じです。
今回リリースでメインに使用した「辺獄₋Linbo-」も、こういった場所に揺蕩って、こういう景色を見ているイメージがずっと頭の中にありました。
「辺獄₋Linbo-」鉛筆画
V これはこの巨大な頭の持ち主の視線から見ているような感覚でしょうか、それともこの不思議な光景を外から見ているようなイメージでしょうか。
T 不思議なことにどちらの目線もある感じです。
個展を開催するにあたって、自分はずっとこの世じゃないもの、でも天国でも地獄でもなく、罪や救いがある神様がいる世界ではなく、誰からも裁かれない心地が良い自由な空間を描きたかった。
V よく髙橋さんの作品は死のイメージやダークなモチーフが多いイメージがありますが、それがネガティブな形ではなくなぜか心地よく、不思議なことに恍惚さえ感じますが、今のお話を伺い、合点がいきました。
T 明るい、暗いという事ではなく、清濁全てが混ざり合って溶けていくような、境界線を越える表現を今後も続けていきたいと思っています。
(2017年7月21日)
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注1髙橋美貴さんの祖父は、彫刻家の赤堀信平氏
「朝、雷鳴」Photoshop
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髙橋美貴プロフィール
東京都生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒。
ソニー・インタラクティブエンタテインメントにアーティストとして在籍。
日本を舞台にしたホラーゲームシリーズで屍人・闇人のデザインに携わる。
2014年よりオリジナル作品の発表を開始。同年Behance Wacom賞受賞。
2016年 ヴァニラ画廊大賞展参加、幽霊画廊Ⅲなど
シリアルキラー展Ⅱ後期とおすすめクライム本
シリアルキラー展2の後期も7月17日(月・祝)まで、残すところあとわずかとなりました。
今展示は、HN氏の膨大なシリアルキラーコレクションを前後編に分け、2部構成でアートワークを始め、手紙や人物にまつわるコレクションを展示中です。
目を背けたくなる凶行を犯した殺人者たちの描く世界は、まるで見るものの心の淵を覗きこむような凄み、寂寥感、無常感、そして得体の知れないものと対峙した時のような緊張感に溢れています。
それぞれの凶悪犯罪者がどんな人生を歩んできたのか、どのような犯罪を行い、現在どのような状況であるかという、HNさんの詳しい解説を添えており、誰かが描いたただの一枚の絵、誰かに宛てた手紙、自宅の窓のかけらや、車の一部。それぞれの展示品の背景を目の前に提示されると、とたんに違った何かに見えてくる、不可思議な心の動きを体験できることと思います。
展示にあたり、実際に起こった事件の時系列や、犯人の生まれ育ち等、資料として参考にした数々の本がありました。今回はその中の一部をご紹介いたします。
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◆世界犯罪百科全書 オリヴァー・サイリャックス(柳下毅一郎翻訳)原書房
ジャーナリスト、フィルムプロデューサー、事務弁護士などの顔を持つオリヴァー・サイリャックス氏が書き下ろした、あらゆる犯罪に関わる事項を網羅した百科事典。特殊翻訳家であり、殺人研究家の柳下毅一郎さんが翻訳を手掛け、巻末の索引から、様々な犯罪にまつわる事項にコミットする事ができます。
かつて犯罪辞典に「傘」や「野菜」という項目があったでしょうか。あまり知られていない傘の使用方法は?襲撃に好都合な野菜は?ジェフリー・ダーマーの項目には、どんな言葉を並べるよりも、一言で氏の本質を突くような記述に唸ってしまいます。
思わず頬が緩むようなウィットとユーモアにあふれた文体は、一つの項目ごとにショートミステリーを読んでいるような不思議な感覚を味わえます。
◆現代殺人百科 コリン・ウィルソン+ドナルド・シーマン(青土社)
『殺人百科』に次ぐコリン・ウィルソンの著作。殺人方法、被害者の傾向、犯罪内容、犯行手段+社会的背景のある殺人や暗殺など分類別に、1960年以降に起きた、有名な殺人事件を網羅できる入門編としてどうぞ。
◆シリアルキラーズ プロファイリングがあきらかにする異常殺人者たちの真実
ピーター・ヴロンスキー(青土社)
シリアルキラーに2度遭遇した歴史家でジャーナリストであるピーター・ヴロンスキーが記したノンフィクション。ローマ時代の快楽殺人から、ジル・ド・レやエリザベート・バートリー、「切り裂きジャック」等の歴史的な殺人者、そして2000年代までの連続殺人の記録を紹介、そしてシリアルキラーを分類し、更に個々の事件に基づき、彼らの心理面から事件を探っていきます。プロファイリングを含む、現在の捜査方法や問題点まで、シリアルキラーについて多方向から知る事ができる1冊です。
終章には加害者と生き延びた被害者への面談に基づいた、シリアルキラーと遭遇した際に、逃げ延びる方法を記しており、詳しくは本作を読んでからのお楽しみですが、最終的にはこれしかないのだと色々と考えてしまいます。銃を枕の下に置いて体を鍛えるとか。あとはメリケンサックを常にはめるとか。
◆平気で人を殺す人たち 心の中に棲む悪魔 ブライアン・キング(イーストプレス)
こちらは少し特殊な形の犯罪系書籍、殺人鬼たちの残した文章(メモや日記など)を編纂したものです。解説は少なく淡々と犯罪者の文章(時には肉筆で残されたものをそのままの形で)を紹介。それぞれの殺人鬼ごとに、高校時代のスクラップから、手紙(妄想や、おくすりの影響多数)、自白に至るまで丸ごと体感することができます。あまりに狂気じみたリズムを刻む文体、解読不可能なフォントに気が滅入ること間違い無し。
◆週刊マーダーズ・ケースブック(省心書房)
印象的なCMが懐かしいこのシリーズ、1995年から2年間、全96 巻総ページ数3455ページという犯罪心理大百科です。
週刊で凶悪犯罪を犯した犯人の生い立ちや時代背景を含めて、事件が起こった過程や被害者の情報、逮捕から裁判にかけて、当時の写真や、図版なども盛り込み、1冊おおよそ30ページ前後の構成で詳しく事件を掘り下げます。一つの事件を詳しく知りたいそんな時、是非お勧めです。
少しだけお説教の香りも漂いますが、そんなこと内容の豊かさに比べたら、ねえ。
さて、連日、殺人犯の劇的な人生と家庭環境を追っているとダウナーな気持ちになるものです。
展覧会を見終わった後、 何かあたたかなものに触れなくては、心の均衡が保てない。いや、あたたかぐらいはもうだめ、アツい何かで揉んでほしい!
そんな方に個人的におすすめなのは洋泉社MOOK『激アツ!男の友情映画100』です。
男の友情詩『アラビアのロレンス』イーストウッドおじいのシブい目尻に埋もれたい『グラン・トリノ』、大胸筋のマジックマイク『エクスペンダブルズ』から、アジア圏ではジョニー・トー監督作品を筆頭に、ホットな韓国男友情映画に新風が吹いた『新しき世界』、そして男の友情は種族を超える『猿の惑星:新世紀』まで、もう丁寧で胸揺さぶる解説!血湧き肉躍る名コピーの数々‼盛り沢山。暗く淀んでいた気持ちから一変、心の中で石川さゆりが「男の祭酒」を歌い始めるくらいまでに回復することができる1冊です。
こちらも皆様の心をあたためる為に無理矢理入荷リストにねじ込み、画廊の物販コーナーで取り扱っておりますので、気分一新したい方は是非!
(田口)
◆シリアルキラー展Ⅱ
後期展示(2017年6月13日(火)~7月17日(月・祝))
入場料:2,000円(限定パンフレット付)平日チケット無し・通常入場/土日祝チケット制(チケットは画廊サイトからのリンクページでご購入いただけます。)
展示室AB共通
http://www.vanilla-gallery.com/sk2017/second/
◆後期展示(2017年6月13日(火)~7月17日(月・祝)第二部)
平日/チケットなし(画廊受付で入場料をお支払いください。)
土日祝/チケット制(事前にチケットをご購入下さい。)
《展示一覧》
チャールズ・マンソン&ファミリー
ダニー・ローリング/ジェラルド・シェイファー
アーサー・ショークロス
ロイ・ノリス/ローレンス・ビテッカー
リチャード・ラミレス
エドワード・ゲイン
キース・ジャスパーソン
ゲイリー・レイ・ボールズ
女殺人鬼たち(ドロシア・プエンテ/アイリーン・ウォーノス/ローズマリー・ウエスト/キャロル・バンディ/ダナ・グレイ)
闇社会の住人達(クレイ兄弟/ヘンリー・ヒル/トーマス・ピテラ)
特別展示:ジョン・ウェイン・ゲイシーの油彩「もう一人のキラークラウン」
ヴァニラ画報
ヴァニラ画報を移行しました。
ヴァニラ画廊 展示やイベント、物販情報などを随時発信していきます。
http://www.vanilla-gallery.com/
Twitter @vanilla_gallery
唯一無二の傷 ー 森崎里菜展「dress」に寄せて
10月26日(月)より森崎里菜展「dress」が始まった。第二回ヴァニラ大賞で宮田徹也賞を受賞し、現在は大学院で人体彫刻の制作に取り掛かる森崎里菜の作品は多くは、一見してわかるように女性が傷を纏っている。顔面に大きな青痣を残している少女。首元から朽ちていく女性。また、バレリーナの美しい衣装を纏った少女像はその煌びやかなレースの下に、夥しいケロイド上の瑕を覗かせる。新作の中でも、白無垢をまとった花嫁と思しき女性像は、全ての歯が抜かれ、お歯黒の代わりに鮮血が彼女の口内を満たしている。
どれも言葉にすると凄惨な限りなのだが、森崎の作品に全く悲壮感は感じない。どの作品も口元は優しく微笑み、美しく自信に満ちている。そう、穏やかに自らの傷を誇っているかのように見える。森崎は大学在学中から、セラミックを使用した作品を制作・現在は大学院にて制作を続けている。今回の出品作は長く制作を続けている『Dress』と『S』いう作品シリーズの新作と、『Broom』と題された新シリーズである。
●森崎:
傷痕がある女の子像を制作すると、DVや暴力がテーマかと問われる事があるのですが、私は傷自体が美しいものと思って制作をしています。私自身が怪我をすることがとても多くて、火傷のケロイドの痕を見ながら制作したり、ものもらいで目の手術をした時の記憶を思いだしたりしながら制作しています。身体改造も見るのは好きで、過去の『Dress』シリーズの中で、スカリフィケーションをモチーフにした作品も制作していました。広義の意味での身体装飾と、体を傷つけること。それに伴う痛み、そして美しい事とは何だろうかという事をテーマに、作品を制作しています。
今回の個展では、『Dress』シリーズとは別の新作も2点展示しています。1点は焼き物の特性を生かしたシリーズで、火葬しても(窯の中に入れて焼いても)骨にならない女の子です。逆に火葬をすると、色をまとって綺麗になる作品です。
もう一つは『Broom』と題したシリーズです。焼き物を制作すると、どうしても窯の中で割れてしまうものがあり、その割れを使用して制作しました。最初から内面が壊れているもの、そこから 現れる美しいものをテーマに制作しています。
傷を付ける事と着飾る事、それが同義になるのは、唯一無二の存在であるという証を身体上、そして心に欲しているからだろうか。彼女達がとても穏やかに微笑むのが、答えのような気がする。
森崎里菜展「dress」
▼10月26日(月)~10月31日(土) 入場無料 ヴァニラ画廊展示室B
唇を強く噛んだとき、瞼の裏を切ったとき、爪が剥がれて落ちるとき
赤や青で身体を彩ることは、痛みの模倣なのではないか。
その疑問をテーマに、着飾る様々な少女像を展示いたします。
▼森崎里菜プロフィール
1991年生まれ。武蔵野美術大学卒業。着飾ること、傷つけること、痛いこと、美しいことについて、人体彫刻を制作中。
http://www.vanilla-gallery.com/archives/2015/20151026b.html