ヴァニラ画報

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映画トム・オブ・フィンランド

現在ユーロスペースで開催中のトーキョーノーザンライツフェスティバル 2018にて、フィンランドで制作された「トム・オブ・フィンランド」が上映中です。

非常に思うところがある作品でしたので、自分が忘れない為にも感想を記します。


主人公は1920年フィンランド生まれのTouko Laaksonen、誰もが知るゲイ・エロティック・アートのパイオニアTom of Finlandその人です。
映画は第二次世界大戦中から始まり、テンポよくToukoの暮らすフィンランドの戦後の生活、そしてセクシャリティを弾圧され、それでも描き続けた一人のアーティストの半生をロマンチックに描いています。

 

映画の中で、決してToukoは描くことを止めません。
国から離れ、共有できる仲間を求め、隠し持ってきた絵を盗まれたとしても、何度も何度もスケッチブックを開き鉛筆を走らせます。脳内のイメージをひたすらに描き続ける様は、鉛の柔らかさと紙の質感が相成り、何とも言えない恍惚感に溢れていました。
私たちは、殴られ、拒絶されてなお、あれほどまでに強く価値観を曲げずに(曲げられずに)、粘り強く、自らの思う美しいものを信じた事はあるでしょうか。

美しいと感じる価値基準は、人によって千差万別でありますが、その美意識をぶれることなく自ら信じる事は、救いでもありながら、一方でその事を共有できることが無い限り、実は本当にしんどい事なのだと思います。

でも描かずにはいられない。美しいと信じているものを描かずには生きられない。

 

一方で映画の中では、その作品を受け取る側の姿も描かれます。誰にも話すこともできなかった事を、顔も知らぬどこかの誰かが理解し共鳴してくれる。一枚の絵が心の拠り所になる。この世界のどこかに、自分と同じものを美しいと感じている人がいる。そしてそれを信じて描いている人がいる。

人の価値基準は個人それぞれですが、この通じ合う嬉しさに関しては共有できるものの一つなのではないでしょうか。

布団をかぶって、隠れて大好きな絵を見ているあのシーン、皆様、覚えありますよねえ。ねえ。

その後、Toukoの作品に魅せられた少年は成長し、Toukoの作品を本人の許可を得て発表する機会を作るのです。昔の自分のように、この作品を美しいと感じる世界中の人たちに向けて。


ネタバレになってしまうので、多くは書けませんが、初めての画集を出すシーンで非常に印象的なセリフがあります。全てのものを作る人にとって、これほどまでに心揺さぶる言葉は無いのではないでしょうか。そしてギャラリーでアーティストの展覧会を開催する側にいる自分も、この一言は非常に心にズシンと響くものがありました。

 

Tom of Finlandの作品に描かれる、おなじみの様々なユニフォームや、レザー姿の男性はもちろん、彼の作品に登場するイマジナリーセックスフレンドの官能的な姿など、ビジュアル面でも大変楽しめる作品です。本当はラストシーンでレザーボンデージの男性達と一緒に雄叫びをあげたいくらいでしたが、心の中で静かに拳を突き上げる程度に留めました。涙

ユーロスペースで上映は残り1回。是非多くの方に見ていただきたい映画です。

(ヴァニラ画廊/田口)

 

http://tnlf.jp/
http://www.eurospace.co.jp/

Tom of Finland
監督:ドメ・カルコスキ Dome Karukoski
2017年 / フィンランドスウェーデンデンマーク、ドイツ、アメリカ / フィンランド語(Finnish), ドイツ語(German), 英語(English) / 116分
字幕:日本語・英語【With English subtitles】

 

トム・オブ・フィンランドを日本に紹介して下さり、映画上映後にアフタートークで登壇された田亀源五郎先生も、新刊『ゲイ・カルチャーの未来へ』でトム・オブ・フィンランドファウンデーションとの繋がりについて書かれています。
https://www.amazon.co.jp/%E3%82%B2%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%81%AE%E6%9C%AA%E6%9D%A5%E3%81%B8-ele-king-books-%E7%94%B0%E4%BA%80-%E6%BA%90%E4%BA%94%E9%83%8E/dp/4907276869/ref=sr_1_5?s=books&ie=UTF8&qid=1518516963&sr=1-5&refinements=p_27%3A%E7%94%B0%E4%BA%80%E6%BA%90%E4%BA%94%E9%83%8E

 

ヴァニラ画廊の近くのBar十誡でも、Tom of Finlandの画集を取り扱っておりますので、お近くにお越しの際には是非。
https://www.zikkai.com/