戸野塚はづき個展「優しい苦痛」作家インタビュー
昨年第五回のヴァニラ画廊大賞で大賞を受賞した戸野塚はづきさん の個展を現在開催中です。
受賞作から新作まで並ぶ展示では、 痛みをより視覚的に感じさせる作品が並びます。
今回の個展について、戸野塚さんにお話を伺いました。
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ヴァニラ画廊(以下V) ヴァニラ画廊大賞の大賞作受賞、おめでとうございました。
戸野塚(以下T) ありがとうございます。
V 受賞時、戸野塚さんはまだ大学生でいらっしゃいましたが、何でこの公募をお知りになったのでしょうか。
T 当時日芸の学生だったのですが、大学のチラシ置き場に、コンペや企画展のチラシを置くスペースがあり、そこでこの公募がある事を知り、教授からも、あなたはこういうのが好きでしょうとお勧めされました。
V かなりニッチな公募ですが…笑
教授は戸野塚さんの作品を熟知していたのですね。
T そうですね。私がどういった作品を描くのか、よく知っている方です。笑
作品自体はヴァニラ画廊大賞に応募するという前提で、卒業制作としても描いていたので、大きい作品サイズで描きました。
受賞作「苦しみと輪廻 巡る」
V 審査の時も、大きさも相まってとてもインパクトが強く、審査員一同驚いていました。
審議を重ね、第五回のヴァニラ画廊大賞をこの作品にしようと、最後は皆一致して大賞に選んだ作品です。
T とても嬉しかったです。選んで下さり、ありがとうございました。
個人的な事なのですが、ちょうど母が亡くなってすぐの事で落ち込んでいたので、とても励みになりました。
V そうでしたか。戸野塚さんの作品は、受賞作を含めて、 視覚的に痛みを伴うものが多いですが、以前からこのような表現を行っていたのでしょうか。
T 昔は、 自分の中の感情で不安が非常に大きな位置を占めていたので、 痛みに気づくことがあまりなかったのですが、最近この痛みを表現したいと思う事が増えてきました。
私自身が実際に不安で苦しい状態を抱えていて、 心の痛みや寂しさに耐えきれない事もあるのですが、
その状態が続くと、 逆にそれらが心に寄り添ってくれるような感覚を覚える瞬間があり ます。
V 今回の個展のタイトルの『優しい苦痛』 はそのようなイメージにつながっているのですね。
T 苦しい事や、生きづらさ、 居心地の悪さに優しく寄り添えるようなイメージで、 このタイトルを付けました。
V 作品内では、赤ちゃんが死に近い状態、 または死が訪れた状態で描かれることが多いですが、 作品内に描かれている赤ちゃんは、 戸野塚さん自身でもあるという事でしょうか。
T そうですね、そうであり、そうでもないとも言えます。 自分を投影している部分もあるのですが、 どこか心の中では線引きしている部分もあって、 基本的には普遍的な存在として描いている感じです。
私は子供が非常に好きなのですが、だからこそ子供や赤ちゃんの苦しみは苦痛の表現に適しているのではと考えました。
V 絵を描き始めたのはいつ頃からでしょうか。
T 油彩を始めたのは、高校の頃からです。 自分が苦しい状態の時でも、絵の世界なら何でもできてしまう。
ただ、その頃は自分が何を描きたいのか、 真正面から向き合う事はあまりしていなくて、 女の子とかを漠然と描いていました。
大学三年生の時に、ドローイングの課題が出て、 イメージの羅列を描いた時から段々と作風が変化していきました。
V そして現在のような作品を描くようになったのですね。
死のイメージや痛みのイメージがぶれないですが、 そのモチーフを描き続けるのは何か理由があるのでしょうか。
T これは自分自身の体験の一部でしかないのですが、先ほど話した通り、 昨年の十月に母が、そして今年の三月に祖父が亡くなりました。
特に母は生前色々とあり、離れて暮らしていたのですが、 ずっと病と闘っていて、 生きるのに非常に苦しい思いをしていたようです。
母が亡くなった時に、 私はやっと母はその苦しい思いの中から解放されたのだなと感じま した。
その直後はどうしてもその姿が頭から離れなくて、 骨や死体ばかりを描いていた時期もありましたが…。
自分自身も含めて、苦しみはいつか終わる、 その先には死が待っていてもそれが希望になりうることもある。
悲しいだけではない、新しい始まりでもある。 ただ単に死への希望ではなく、 マイナスイメージの感情と寄り添っていく道もある、 そういった思いを絵に託しています。
V 確かに死と言っても、様々な形がありますよね。
T そうですね。身体機能が停止するだけが死ではなく、 精神の死という事もありますよね。
私も中学生の頃なのですが、いじめられていた時期があり、家族も不仲で、 記憶がごっそり抜け落ちている期間があって、 その間の事を全く覚えていなくて、その期間の後から、家族や当時の担任に人格が変わったと言われた事がありました。
その時に、 私は一度そこで形式的な死を迎えたのではと今は思うようになりま した。
昔の自分が一度そこで無くなっても、絶望だけではなくて、 新しい何かが自分に訪れるような感覚を覚えたからです。
よく、過激でグロテスクな絵を描くと言われるのですが、伝えたいことの本質は、孤独や苦しみに寄り添いたいという気持ちです。
会期中は会場におりますので、是非一度作品を見ていただければと思っています。(2017.8月24日)
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'17/8/22 〜 9/3戸野塚はづき展「優しい苦痛」
2011年より毎年開催する公募「第5回ヴァニラ画廊大賞」にて大賞を受賞した戸野塚はづきは、生きる苦しみと死による解放をテーマに制作を続けてきました。
「喪失や孤独など、様々な苦しみや痛みを美しいものとして昇華、肯定し、解放されるその時まで寄り添いたい」と語る彼女は、仄暗い物語性を含ませながら、真正面から人間の生と死の本質を掴もうと模索してきました。
受賞後初個展となる「優しい苦痛」では大作となる新作も発表し、無情な世界に幽かに映る希望の祈りのかたちを捉えます。
これからの活躍に期待が高まる新たな才能の開花を是非ご高覧下さい。
戸野塚はづき
生きる苦しみと解放をテーマに、赤ん坊を主なモチーフとして油絵作品を制作。